ある日、私は入院しました。
子どもが私に抱きついて、不安そうに尋ねました。
「ママはいつ家に帰れるの?」
いつ帰れるかなんて、わからない。この先、もう回復することは無いのかも知れない。元気に過ごしていた頃に戻りたい。同じ言葉が繰返し、グルグルと頭の中を回っていました。
私は「きっと、1週間くらいで帰れるよ。お医者さんに治してもらって、またいっぱい遊ぼうね」と、思わず言ってしまいました。
病状が悪化していた私は、気を失うように眠ってしまって、ふと気づいたときには、もう家族は病院を帰ったあとでした。
静かな病室で点滴に繋がれて、ひとりで落胆していると、枕の下に白い封筒を見つけました。
封筒の表には≪1日1枚だけ読むこと≫と幼い字で記してありました。封を開けると、とても小さく折り畳まれたレシートのようなものがたくさん出てきました。
全部で12枚。
几帳面に畳まれた1枚を広げると、それには子どもからのメッセージが。
「注射痛いよね。ママ頑張れ」
2枚目には、
「ちゃんと食べて、いっぱい寝ると、すぐにお家に帰れるんだよ」
3枚目には、
「治ると信じると、はやく治るんだよ」と。
≪1日1枚だけ≫の約束を我慢できなかった私は、12枚を1日で読んでしまいました。「1週間で帰れるよ」と、苦し紛れに言ったことを、子どもは感じ取っていたそうです。
面会時間のギリギリまで、書いてくれた小さな手紙が、全部で12枚。私はその手紙を、お守りのように握りしめ、身体の苦痛に耐え続けました。
そして入院からひと月が過ぎようとした頃、医師から「このまま入院を続けても、改善は見込めないでしょう。もう退院していただくしか」と。
私は心から嬉しく思いました。
子どものそばに居られるなら
もう、何でもいい。
挿絵協力:亜梨沙