(地域防災対策支援研究プロジェクト②研究成果活用の促進「神奈川県に係る防災研究データベースの活用を起爆剤とした官学民連携による地域防災活動活性化研究」 平成26年度成果報告書より抜粋)
ⅰ) 研究・活動報告
○横浜市立太尾小学校校長 鷲山龍太郎氏「地域・学校・家庭の連携による防災教育の推進」
- 「日本列島(郷土)がどのようにできて、どのような災害が起きるのか振り返る地学教育」、「実際に子ども達や人々をどうやって守っていけるのか」の2点について提言した。
- 義務教育が終わった後、日本列島や自分の郷土がどのようにできたかを理解している人が少ない。教育課程が変わっていく必要がある。
- 社会科の「地理」と理科の「地球」領域がリンクしていない。社会科と理科で連携して、郷土と日本列島の地理、生い立ち、災害を教えるべき。
- 小学校3年生から中学校までの学習指導要領案について(紹介)
- 学校・地域・保護者が一体となって行う地域防災訓練の実施について:児童が学校以外で被災した場合の生き延び方を家庭、地域とともに考える。家庭防災マニュアルの作成。
○平塚市立中原中学校教諭(理科)佐藤明子氏「教科教育と防災教育をつなげる実践例」~平塚市花水小学校学校保健安全委員会の活動などから~
- 中学校で、地震や火山、防災について学ぶのは、理科の中の4分の1弱程度。「環境」という教科の中で(地学・地質)、身近な自然や災害について学ぶ。各教科でどれぐらい防災について学ぶか調べた(社会、理科、保健体育、家庭科、国語、英語)が、時間はわずか。同じことを別の教科で繰り返し学ぶことも必要。
- 発達段階に応じた適切な学ぶポイントがあるのではないか。
- 学校保健安全委員会の紹介。保護者、生徒、教師が一体となって学校の安全を見直すというねらい。
○鎌倉市立第一中学校校長 西岡正江氏「津波危険地域における防災教育~地域の支援と協働を支えに~」
- 学校は相模湾から200m、海抜28mの高台にあるが、生徒達は10m未満の所に居住。
- 地域のシンポジウムに参加し、地域の住民、設計事務所の人達と「逃げ地図」を作成。避難所運営・HUG ゲームの実施。
- 気仙沼市立階上中学校との交流(世界防災フォーラムに参加するような防災教育の取り組みでは先進中学校)、「こころの自由帳」という被災直後の宮城県の小中学生の思いをまとめたものを第一中学校に展示。鎌倉ジュニア防災フォーラムにも参加。
- 「自立・共生」を「自助・共助」へ:自分の命は自分で守るだけではなく、家族や地域を守る、中学生として支えあう人間関係を作り、やがて社会貢献活動ができる人を育てたい。
○神奈川県立西湘高校教諭(地学)釣田あかり氏と西湘高校生徒「SSHスーパーサイエンスハイスクール西湘高校の防災教育」
- 西湘高校は神縄、国府津-松田断層帯が近くに通り、海まで1km、箱根と富士山が近く、酒匂川まで1km、あらゆる災害の脅威にさらされており、防災教育に力を入れている。スーパーサイエンスハイスクールに指定されており、SSH防災という自由選択科目がある。年間約20 回の講座で、知識編と実習編がある。
- 防災訓練企画隊の活動報告。SSH防災という講座の有志で構成。今年度初の臨時的組織。生徒主体の防災訓練を企画、立案。全校生徒の防災意識を向上させることにつなげたい。
- 第1回防災訓練時に事前・事後アンケート及び先生へのアンケートを実施、反省点を踏まえて、第2回防災訓練を企画し、多くの先生にも通知せず抜き打ち訓練で実施した。行方不明者想定、渡り廊下・階段を封鎖し、地震・津波に加え、途中から火災が起きる想定とした。
- 防災ハンドブックの作成と配布。地震・津波・火山噴火・火災についての防災情報を掲載。災害に対する事前知識の重要性を伝える。
- 第2回訓練後の事後アンケートでも緊張感が欠けるという点は改善されていなかった。
- 来年度にどう生かすか。先生との協力関係を構築する。
○神奈川県立高津養護学校 総括教諭 兼子秀彦氏「地域と協働した防災活動」
- 障害を持った子ども達に地域で安心安全な地域生活を送って欲しいが、養護学校及び障害を持った子ども達への理解が得られない。生徒は広範囲に暮らしているので地域との連携が薄いといった課題があり、養護学校が主体となり、防災シミュレーション訓練を実施した。このため、地域ネットワーク推進会議を立ち上げた。
- 訓練をきっかけとして、地域や他の特別支援学校で避難所運営訓練が実施されるようになったといった成果があった。しかし、養護学校は、避難所として未指定で、避難所で配給する食料等も自前で工面して準備していたが、地域住民にとっては養護学校に行けば食料等が支給されるといった誤解を与えることになり、一旦訓練は終了した。
- 本校の地域における役割を明確化するため、川崎市と協定を締結。二次避難所(福祉避難所)及び一時避難所の指定を受けた。近くの一次避難所(市立小学校)の避難所運営会議に出席(月1回)、近隣町会の防災訓練に参加。
- 防災面だけでなく、日頃からの地域とのつながりが大切。
○公文国際学園 英語科教諭 川上誠氏「私立学校における防災教育」
- 県内及び都内等の学校における防災対策、イベント等を紹介した。
○防災・情報研究所 髙梨成子「神奈川県DBプロジェクト活動報告-神奈川県下の学校防災の動向」
ⅱ)パネルディスカッション
<パネリスト>
・横浜市立太尾小学校 校長 鷲山龍太郎氏
・平塚市立中原中学校 教諭(理科) 佐藤明子氏
・鎌倉市立第一中学校 校長 西岡正江氏
・公文国際学園 英語科教諭 川上誠氏
・神奈川県立生命の星・地球博物館 館長 平田大二氏「“我が事の防災教育”支援」
・慶応義塾大学商学部 教授 吉川肇子氏「クロスロードと防災教育」
<司会>
・時事通信社 解説委員 中川 和之氏
<要旨>
- 何故、自然災害は起きるのかを考えることがまず大切ではないかと思い、色々な所で話している。災害が発生するメカニズムを、一般の方、子どもたち、先生に認識を持ってもらいたい。理科の中でメカニズムの基本的理解を普及活動していく必要がある。学校の中で、場面を作っていくしかない。
- 防災教育という視点では、専門家でなくてもできる教育を考えて、教材を作っている。また、人的資源をどう活かすかを考えている。故郷や自分の住んでいる地域の地形や地勢、過去の災害の履歴はどうなのか、また、災害が発生した時、どのように被害が起きるのかを想定し、学ぶことに意味がある。わが地域はどうなのかは、生活圏の狭い小学生でこそむしろやっておくべきである。発達段階によって教材を工夫していくことは良い。形式的であっても避難訓練はとても大切である。
- 小・中・高校の年代によって教育の仕方が変わる。防災教育は発展途上で、教育とセットとして効果を上げるために、先生たちは悩んでいる。知識のローカル化や子どもの発達段階に応じてどうやっていくか、地域とどうやって協力していくか。
- 小学生も3.11 以来、知識もそれなりに持っている。地域との協力関係については、この地域ではどういうリスクがあるのかの共有が必要。学校、家庭、地域で防災マニュアルを作って共有し、教育に活かさないといけない。現状では、地震というと学校に皆で逃げようというレベル。
- 知識のローカル化については強く感じている。地域に資源があると良い。そういう教材が災害分野でもあると専門外の先生でも教えやすい。発達段階に応じてということでは、1~6年生まで取り組めるものが欲しい。現象よりも自分の行動を決めるための考える力、生き抜くための力を身につける。社会の情報と科学的分野を理解して情報を受け取って、自分の行動を決めるところまで持っていかないといけない。地域との連携では中学生は部活が忙しく難しい。
- 小中学校の9年間で、学びを連続してやっていくことが重要。生徒・保護者アンケートの結果、中学3年生の方が切迫感はなく、1年生の方が知識を持っていた。それは小学生の時に総合的学習の中で調べ、学んできていたことによる。小さい頃から教えて行く「学びの連続」は非常に大事で、学年を追うごとに系統立て、「知識のローカル化」(各地域の災害の特性と、それに応じた防災対策・行動等の知識)を小・中学校が連携して、つながりをつけていくことが大切。また、地域の方々と共有しながら何ができるかが必要で、地域の熱心さに押されたり、他の学校の取り組みから生徒が刺激を受けると、生徒が教職員に働きかけ、教職員の意識を変えることがある。生徒と教職員が自立するような形で、地域と何かしら組んでやっていくのが良いと、気づき始めたところである。
- 生徒の方から動き出すというのはまだまだであるが、生徒の方から自主的に働きかけていくことは必要と思う。
- 地域の自然をよく知るということが重要。神奈川県では大正型関東地震が至近の例で、鎌倉、逗子では津波があった。横浜では火災で大勢の方が亡くなった。西側は土石流で、自然の成り立ちが違うため起きることが違うといったローカルなことを知っておく必要がある。
- 先生たちにとって、郷土を知るのはハードルが高い。先生たちは知らないことは教えられない。
- 総合的学習の中で、人材バンクの力を借りて地域学習をしている。一番地域を知っているのは、地域の方と子どもたち。
- 教材のバリエーションは出尽くしている。切迫感がないことを問題にする場合は、抜き打ち訓練を行う。定型訓練が大事と言っているのは、何回か歩かないと避難経路を覚えられないので、毎月1回はやるべき。
- 被害を規定することは、地域の特徴である歴史や地理が理解でき、地図を使った学習になる。中学生なら避難所運営の主体となるかもしれない。教材のメニューは用意されているが、何のためにやるのか、何が焦点なのかを意識すると、使いたいものが見えてくる。
- 新たに時間を作って防災活動はできにくい。限界の中で定着させていくのは、地域の熱い後押しがあってこそ。
- 防災教育を進めていかないといけないことは認識しているが、学校の行事等を進めないといけないため、なかなか時間がとれない。学校=避難所ということで、地域の方と一緒にいろいろできたら良いと思う。
- 授業時間数の問題は非常に大きい。理科の時間の中で、2時間の授業をしてもらおうとすると、他にしわ寄せがいく。総合の時間でも、他にやらなければいけないことがある。小学校から中学校にかけて体系的に学べるようにすると充実するのではないか。
- 「クロスロード」(ジレンマ場面で学ぶ災害対応カードゲーム)は、漢字の問題をクリアすれば小学生でもできる。これは、先に意思決定することがポイントで、使いにくいということであれば、防災クイズにして、その学校、地域での正解は作ることはできる。このクイズを作る、誰が聞いているかわかる文章にすることは、勉強の活動につながる。保育園、幼稚園では瞬間早行動ゲームが進められる。
- 防災は教科の関連で、クロスカリキュラムと総合の時間でやっていく。中学校では教科書レベルでよく関連付けられているが、小学校ではそこまで考えられていない。カリキュラムレベルに落ちていないと、現場の先生はなかなかできない。総合的学習の時間でできることを目指したい。
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