①舞台は神戸市長田区の小学校。授業中に地震が起き、大津波警報が発表される。6年生のあけみは、同級生から避難の際の合言葉「お・は・し・も・て」を教えてもらい、担任の先生に「6年生が低学年と一緒に避難するこ」を提案する。あけみは、1年生の弟・ひろしと、一時避難場所に指定されている「水笠通公園」に向かって歩き出す。公園で母と再会したあけみは、姉が弟を思うのと同じように、母が子を思って待ってくれていたことを知る。

②神戸市立真陽小学校は、南海トラフ巨大地震の“最悪想定”では、津波の浸水域に位置しており、避難体制の強化が喫緊の課題となっていた。そこで、関西大学近藤ゼミでは、小学生と協働して、毎週１回、小学校の校内放送で防災のコンテンツを流してきた。今回は、その活動の一環として、ラジオドラマのシナリオづくりと収録を放送委員会の時間におこなった。ＢＧＭには、大学生が作曲してピアノで演奏したオリジナル曲を使用した。エンディングは、児童の印象により強く残るよう、小学校の校歌を編曲してミックスダウンした。

ドラマ制作をワンショットで終わらせては、防災力の向上にはつながらない。当該実践では、校内放送で毎週１回、１年半にわたり防災の放送を持続するなかで、ドラマの放送もおこなった。３か月後には再放送も実施している。そのうえで、地区で防災シンポジウムを開催し、地域住民１５０人にドラマを聴いてもらった。また、ストーリーの連続性を持たせた第２弾も制作中で、３か月ごとにドラマの放送を実施する予定である。

時間の確保は、ひとつの課題である。今回は、小学校の放送委員会の活動内におさめるため、児童の声を収録する作業は、わずか４５分程度でおこなった。時間をかけて丁寧に作業をすれば、クオリティをあげることは可能である。しかし、学校も児童も、防災ドラマの制作は、あくまでプラスアルファの取り組みであるため、これ以上の負担はかけられない。したがって、今回は無理をせず、展開を持続することを優先させた。

１度の活動で欲張らないことが肝要であろう。真陽小学校で防災実践をスタートさせてから、すでに１年半あまりになるが、これまで５０本の防災放送原稿を制作してきた。扱う対象はマルチハザードで、小学生児童が飽きないよう、すこしずつ情報を提供し、ひとつずつ知識を積み上げるようにしてきた。見出された不足と課題をふまえて、次へ次へと活かすねばり強い持続力がカギであると考える。

ドラマの制作にあたった放送委員児童の防災意識は目覚ましく向上した。自ら図書室で震災関連の書籍を借りて来る児童も出てきた。制作したドラマは、校内放送で全校児童に伝えた。聴取した児童の９４％が「良かった」と回答し、９０％が「役に立つ」と回答した。３か月後に記憶テストをした結果、ドラマに散りばめた情報の定着率は、７０～９０％超であった。協働した大学生も成長し、「学び合い」が実現したといえる。